2011年7月16日土曜日

対談 脳科学に学ぶ

間島 大心(岡崎共立病院)

社団法人 日本作業療法士協会 広報誌
Opera(オペラ)15 2011年3月号
対談 脳科学に学ぶ
脳がない動物はたくさんいるが、身体のない脳はない
池谷裕二(東京大学大学院薬学系研究科准教授)
中村春基(日本作業療法士協会会長)


 以前、愛知県認知運動療法研究会のホームページに「運営委員の雑感」と言うコーナーがあった。そのコーナーでOTの東海北陸学会で聴講した池谷准教授の講演内容について自分の考えを交え紹介した。今回、その池谷准教授と日本作業療法協会会長との対談がOT協会の広報誌に掲載されていたので、自分の解釈を交え紹介する。

 以前の「運営委員の雑感」の時も記載したが、池谷先生は脳の基本的な役割を「身体感覚を身体運動に変換するコンバーター」としている。更にその変換する作業が反射であると説明しており、脳の能力を上げるにはその反射力を鍛える以外に無いと説明している。対象との相互作用の結果得られた身体感覚からの情報を中枢神経系(=脳)を介して身体運動(=筋出力)が出力されるといった機能環と似た捉え方をされていると感じる。ただ、「反射を鍛える」と言われてしまうと多少勘違いされてしまうところがあるように思う。実際に神経の働きは反射であると言うのはそうだと思うが、それらが複雑に繋がり合ってネットワークを形成すると、そこから出力されるものの総体が身体運動であると言う解釈を入れたい。そして我々セラピストはその神経のネットワークのどこに破綻があって、身体を介してそれをどのように再形成していくのかを考えていくのだと思う。それにあたり我々セラピストが破綻した脳の神経ネットワークに対峙していくに際、破綻した神経ネットワークがどこであるかを知る(=評価)為に又はその神経ネットワークの再形成を促すためには必ず身体を介さなければならない事を忘れてはならないと考える。池谷先生も「身体を省略した脳を考えるのは、誤った傾向」だとか、実験で口に棒を加えることで笑顔と同じ顔の状態を作ることで実際に楽しい嬉しい気分になってくるとの現象を挙げ、脳内に起こる現象においても身体が深く関わっている事を「やる気や感情や心は身体に散在している」と表現している。

 またこの対談の中で「パッシブ・ラーニングよりもアクティブ・ラーニングの方が定着率は良い」事や「脳の記憶力は出力に依存している」、「記憶の一番大きい意味は予測」といったことなどがあげられている。我々の臨床の中で特に認知機能の低下をきたしている患者において危険認知機能の問題に対することが多いと感じる。なかなかセラピスト側から「今のは危なかった」、「次は気をつけよう」などと声をかけてもなかなか動作、行為の改善に至らない場合が多い。半ば患者のやる気次第と諦めていた部分も私の中には芽生え始めていた。その結果が「改善に至らない」といった状況を招いてしまったことを反省する。私は危険認知機能をただただ危険認知としてしか捉えておらず、今回の対談を読み、私の止まっていた脳を動かしてもらえたように感じる。まだ私の中にはアクティブ・ラーニングを患者に提供できるような具体的な方法を持ち合わせていないので、臨床と図書室との往復を継続していきたい。