2014年2月15日土曜日

転倒

首藤 康聡(岡崎南病院)

さて2月6日よりソチオリンピックが開催され,この文章を書いている今日で6日目.現時点での日本のメダル獲得数は男子スノーボードハーフパイプの平野選手の銀メダルと平岡選手の銅メダル,男子複合ノーマルヒルの渡部選手の銀メダルの3つです.この記事がアップされる頃にはきっとメダルの数が増えていることだと思います.

さて,平野選手らが出場したハーフパイプの決勝ではコースのコンディションが悪く転倒する選手が多かったように思います.このような競技に転倒はつきものですが,転倒する際にはどの選手も反射的に手を伸ばしていました.これは言うまでもなく「保護伸展反応」です.この反応は転倒による怪我を防ぐための防御反応の1つで,この反応のおかけで我々は自分の身体を守ることができます.身体を守るこの能力は我々には必要不可欠であり,無くてはならない能力です.

しかし,この能力をあえて封印する職業の方々がいます.それは「お笑い芸人」です.皆さんもテレビで芸人の方々が白い粉や墨の池に飛び込むシーンを見たことがあると思います.この時,必ずと言って良い程,芸人の方々は自分の顔を汚します.そうした方が笑いを取れるからです.ではどうやって顔を汚すのでしょうか?中には飛び込んだ際に顔に塗りつける芸人もいます.しかし,中には飛び込んだ際に手を伸ばさず顔から飛び込む方もいらっしゃいます.つまり笑いを取るために意識的に保護伸展反応を抑制しているのです.

この意識的に反応を抑制する機能は特異的病理を抑制する事と似ています.ではなぜこの2つは似ているのでしょうか?それは2つの出来事が人間の基礎科学の上に成り立っているからです.反射が皮質の影響を受ける事は数年前の学会で当学会の会長である宮本先生が説明されていました.それは腱反射の増強法で有名なジェンドレンシック法でも説明ができるというものでした.この方法は反射が出現しにくい対象者の意識をそらす事で反射を出現しやすくする方法であり,これは裏を返せば反射は皮質の影響を受けているとおっしゃっていました.これは一つの基礎科学でこの基礎科学を応用したのがお笑い芸人の方々でもあり,我々臨床家でもあるのです.

リハビリテーションは応用科学であり,当然ながら認知神経リハビリテーションも応用科学です.そしてお笑い芸人の行動も同じ応用科学なのです.おそらく保護伸展反応を抑制する自分たちの行為が応用科学であると考える芸人さんはいないと思います.しかし,もとをたどれば共通する部分は同じなのです.基礎科学を理解する事で臨床以外の意外な部分も見えてきます.ひょっとしたらそれが次の臨床のヒントになるかもしれませんね.

2014年2月1日土曜日

失行症―「みること」「さわること」とのかかわりへ

佐藤 郁江(岡崎南病院)

失行症―「みること」「さわること」とのかかわりへ
中川 賀嗣著 高次脳機能研究 第29巻第2号 2006年

副題の「みること」「さわること」がきっかけで読んでみようと思った文献です。

この中で行為・動作を3つの側面に分けています。
①何を行うかの側面(動作の内容の選択)
②どのように行うかの側面(動作の駆動・抑制と身体間の調和)
③動作の正確さの側面(補正)

動作・行為をこの独立した3つの側面に区分し観察できると述べています。失行症という部分だけでなく、動作を観察するにあたってこれはとても大切なことに思われます。実際この3つに分けた中で③の部分においては非失行性障害として、体性感覚の入力系の障害、空間操作能力障害、出力系の障害と考えています。この文献自体が失行を、パントマイムの障害と道具使用の障害とで考えて理解しているのであって言語理解ができているかどうかといった分ける作業を行っているものであると感じました。この分ける作業は私たちが治療していく中で原因を突き止める作業と似ているところがあると考えられ、もう一度見直してみることでできている、できていないに対して観察を進めていくことができる手掛かりになると感じました。