2015年5月17日日曜日

考えるカラス

荻野 敏(国府病院)

NHK 考えるカラス (NHK出版,2014)

NHK Eテレにて火曜日午前10時と木曜日午後11時45分から放送されている番組。軽快な音楽とともにカラスが不思議な行動をとっています。長ぼそいガラス管の中に水が入っていてその上に餌らしきものが浮いています。そのままでは嘴が餌に届きません。カラスは考えます。すると、なんと横にあった小石をガラス管の中に入れて水かさを増しはじめました。そしてついに餌をゲット!!

「もしかして?」からはじまる楽しい科学の考え方がコンセプトのこの番組は、大人が見ても十分楽しめることができます。ナレーションで何度も出てくるこのフレーズが印象的。

 観察(かんさつ)し、仮説(かせつ)を立て、実験(じっけん)をし、考察(こうさつ)する。科学の考え方を学べ。『考えるカラス』。

書籍ももちろん出ています。そのあとがきにはこんなことが書かれています。

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 学校教育では、唯一の正解が用意できる問いが出されます。とくに入試問題では、誤解なく絶対的で唯一の正解が得られる問題が作られます。このため、生徒は、出題者が期待する正解を探す習性を身に付けてしまいます。-中略-。しかし、実際の物理現象(現実の社会生活でも)に対する理解は、ある範囲内に収まる条件下での解釈をとりあえずしているに過ぎないのです。
 考えるカラスが求めているのは、「権威者があらかじめ用意した正解」を当てることではありません。あなた自身が正解に違いないと思えることです。そのためにはどうしたらよいのでしょうか。それには、与えられた条件を自ら認識し、必要な情報を集め(ここが勉強といわれる部分かもしれない)、そこから論理を構築して結果を推定し、人に説明してください。そのうえで、その条件と論理が正しいかどうかをどうやったら検証できるかを設定し、これを実践して検証します。そうすれば、その論理が正しかったかどうかの判断は、自然界が答えてくれます。
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これって僕らの臨床場面を端的に映し出していませんか? 患者を外部と内部から観察して、病態仮説を立てて、どうやったら回復・学習させることができるかという治療仮説を導き出し、訓練(検証)を行う。そしてその論理が正しいかどうかは訓練の結果でみることができる。科学的なアプローチは「権威者」が本にあらかじめ記載した治療を実践することではなく、観察から始まらなければいけない。認知神経リハビリテーションの訓練にマニュアルはないし、訓練は無限に存在します。患者が代われば訓練が変わることはもちろん、同じ患者でもセラピストが代われば訓練が変わります。だからシステムなんですよね。認知神経リハビリテーションには基本的なルールと原則がありますが、決してこれをやればいいっていうようなマニュアルはない。

だから僕らは、「考えるカラス」のように目の前の患者さんを観察して、仮説を立てて、検証して、考察しなきゃいけないんです。

あとがきには朝永振一郎博士の言葉が紹介されています。

 ふしぎだと思うこと
 これが科学の芽です
 よく観察してたしかめ
 そして考えること
 これが科学の茎です
 そうして最後になぞがとける
 これが科学の花です

臨床という現場で、患者の治療に相対し、そして花を咲かせる。そんなセラピストになりたい。

2015年5月1日金曜日

「すべては光る」から

井内 勲(岡崎共立病院)

すべては光る 光る 光る すべては 光る 
光らないものは ひとつとしてない 
みずから 光らないものは 
他から 光を受けて 光る 

これは、子供が通う小学校の石碑に刻まれている銘文である。

坂村真民という詩人の作品で、数多くの癒しの名言を残し多くの人に慕われた方らしい。

恥ずかしながら、自分は不勉強で存じ上げなかった。

名歌は色々な形で読んだ人の心に浸透していくと思う、その時々の立場や環境、心理状態などによって様々な捉え方が各々にあるのではないか。そして、それはまた一度立ち上がったら永続するわけでもなく、時間が経過すると、自らの経験を背景にまた違った形で内省される事も多い。

今の自分は、「みずから 光らないものは 他から 光を受けて光る」の部分がとても印象的であり、色々なことをここから感じ取れる。

皆さんはいかがでしょう。