2011年9月15日木曜日

わかりやすいはわかりにくい?-臨床哲学講座

佐藤 郁江(岡崎南病院)

わかりやすいはわかりにくい?-臨床哲学講座
鷲田清一(著) ちくま新書

以前に山鳥重先生の『「わかる」とはどういうことか』という本を手に取って読んだことがあった。私にとってこれは腑に落ちていました。その後しばらくしてこの本『わかりやすいはわかりにくい?』を見つけて手に取った。私の中でどういったことだろうと読み始めました。章ごとに「問いについて問う」、「こころは見える?」などのついておりその最終章に「わかりやすいはわかりにくい?―知性について」がありました。その中に「わからないものをわからないまま放置して入りことに耐えられないからだ。だから、わかりやすい物語に飛びつく」とある。これは私の中にもあり、自分なりの理由をつけていることは多い。しかし、その少し前に「正解がないものに、わからないまま、正解がないまま、いかに正解に対処するかということなのである。そういう頭の使い方をしなければならないのが私たちのリアルな社会であるのに、多くの人はそれと反はい方向に殺到する」とあります。私の中で簡単に言ってしまえば幅の広い考え方をしなければいけないのだと思いました。それと同時に患者さんにとって納得のいかないことには不安が付きまとうこともあります。わかりやすいように説明してもその時その人の解釈であり、変化が起こってくることを、私が知っていなければいけないのではと感じました。

2011年9月1日木曜日

音楽で脳はここまで再生する

尾﨑正典(尾張温泉リハビリかにえ病院)

音楽で脳はここまで再生する   ―脳の可塑性と認知音楽療法―
  奥村歩(木沢記念病院中部療護センター脳神経外科部長)
  佐々木久夫(構成・編)
  人間と歴史社(2008年5月20日 初版第1刷発行)

 偶然、本屋で目に留った書籍であった。音楽療法は学生時代の特別授業で経験したことがあるが「認知音楽療法」という言語は初めてであり、思わず手に取ったというのがこの本との出会いであった。パラパラっと読んでいるとその中に「カルロ・ペルフェッティ」「認知運動療法」の文字が視覚に入ってきた。全く偶然に出会った本の中に2つの単語が書いてあり、読んでみようと購入した。著者は医師であり、岐阜県美濃加茂市にある「木沢記念病院中部療護センター」に勤務されており脳外傷による「重度脳機能障害」のある患者さんが入院される病院であり、その設立趣旨は、「交通事故による遷延性意識障害を含めた重度脳機能障害の後遺症を認める者に対して専門性の高いリハビリや看護等の医学的療法を施して、社会復帰への可能性を追求することを目的とする」とされているそうです。

著書のなかで「認知音楽療法」とは、「認知機能がうまく働かなくなってしまった高次脳機能障害の患者さんに、音楽の複合的な刺激を用いて、眠っている機能を賦活させ、あるいは新たな脳内ネットワークを発達させて、認知機能の構築を図る療法」と述べられている。認知音楽療法のターゲットとしているのは、あくまでも患者さんの脳の認知機能であり、患者さんの脳の神経機能の再建や再組織などの機能回復のメカニズムに注目しているとのことである。著者の勤務先で実施されている「リハビリ」は脳に対する刺激を意識した治療が基本となりこれを「五感刺激療法」と呼び、通常「五感」とは、嗅覚・視覚・聴覚・味覚・触覚(位置覚や振動覚も含む)を指しますが「五感刺激療法」は、この五感を単独刺激するのではなく、複合的に刺激して、最終的には脳の「認知機能」に働きかけることを目的としているとのことである。

 認知運動療法が著書の中で、どのように述べられているかというと『従来のリハビリテーションは、脳や認知機能という中枢を意識する視点が乏しく、「身体のためのリハビリ」といえるものでした。従来の運動機能の回復を担う「運動療法」(運動マヒの回復を図る療法)を例にとっても、その理論はマッサージや関節可動域訓練、電気刺激など、再び身体を動かすための「動機づけ理論」がその拠りどころとなっていて、脳から切り離された「身体のみ」に長いあいだ視線が向いていました。ところが、近年になって、運動療法の世界においても「五感刺激療法」的な、脳機能を意識した視点が取り入れられ始めています。
 1980年代、カルロ・ペルフェッティによって「運動機能の回復には筋力増強などの身体を対象にした治療ではなく、脳の認知過程への学習による運動の認知制御機構を再組織化する治療が大切である」ことが明らかにされるに至って、今日では運動療法も「認知運動療法」へと進化しています。

 ※カルロ・ペルフェッティ・・・・イタリアのリハビリテーション医で、近年のリハビリテーションの世界に新しい可能性をもたらす「認知運動療法」の基礎を確立した。』と書かれています。

 著者のセンターでは脳科学、脳の可塑性、意識、認知機能の活性化、気づき、情動などに注目し音楽療法を展開されています。確かに私が経験した音楽療法は太鼓をたたいたり、ピアノに合わせて踊ったり、ハンドベルで演奏したりと何が何だが分からず皆と踊ったり演奏したり、とにかく楽しく行えばいいといった感じ(実際指導者も当時言われていた。)であった。音楽療法をきちんと学習したわけでもないのでよくわからないというのが当時の感想であった。

 認知音楽療法の有用性については以下のように挙げられている。
1)認知構造を刺激
2)音楽する脳はタフ
3)残存機能を活かす
4)ヘッブの法則
5)記憶・情動に共感
6)快の原則
7)運動機能の随意性
8)気づき
9)認知機能の回復
10)非薬物療法

 著者は、セラピストの力量次第で結果が大きく違ってくると述べており、認知音楽療法の施行にあたってセラピストが心得ておくべきいくつかの条件が挙げられている。
1)音楽的刺激に対してクライアントの反応を鋭い観察力と感受性で受け止める。
2)クライアントの微妙な「表情の変化」を正確に読み取る。
3)反応の状況によって刻々と与える刺激を変化させる。
4)クライアントに外界や自己への「気づき」を取り戻すよう促す。
5)理論背景を持つ・・・神経科学、神経病態学などの知見を理解しておく。
6)「回復のメカニズム」を明確にする。
7)「戦略」を持つ
8)「医学用語」で著述が可能な事象を対象とする。

 認知音楽療法は治療者と患者さんとの間で「音楽」という太古の昔から人類が関わってきた一つの道具を通じて治療に取り組んでいる。脳科学、認知機能等視点を取り入れており音楽を通じて患者を知ろうとしている。患者さんと音楽療法士の関わり、認知音楽療法の脳科学からの視点など書かれているので興味のある方は一度読んでみると、私たちが日々学習している認知神経リハビリテーションをまた新しい別の視点から考えさせてくれると思う。