2016年9月15日木曜日

患者の学び

尾崎 正典(尾張温泉かにえ病院)


ある上腕骨骨折の患者が、初回の治療時に以前、NHKでやっていた痛みに関する番組について語った。「痛みに意識を向けてはいけないんですよね。でも分かってはいるんですが、どうしても向けちゃうんです。身体はがちがちだし、痛いところにどうしても気持ちがいってしまい、動かすとさらに痛みが出ちゃいそうで、分かっているんですが・・」痛みや、痛みの治療に関して、NHKテレビで学んだ患者である。民間のテレビとは違い、NHKというマスメディアの影響はかなり大きい。「NHKでやっていたから」というだけで、信用度が全く違う。以前も、川平法、ボツリヌス療法など放映された次の日の患者の話は、NHKの番組の話で持ちきりだった。そして、しばらく続く。すぐにセラピストの専門書を買い、持って来られる患者、実際にボツリヌス療法を行う患者、しかし、放映された患者の回復と同じ結果が出て改善されるということはほとんどない。よい結果だけを放映していることは、患者自身がよく知っているが、やはり、「よくなりたい」と思うのは当然であろう。患者は、あらゆる可能性を試してみたいと思う。

痛みの番組をみて、痛みの最前線のことを知っている患者への治療は、番組の内容の確認作業から入っていった、NHK番組というツールを通じて患者の治療を行っていき、患者の痛みは短期間で軽減され、身体のがちがち感は無くなり、洗濯干し時にのみ、若干ツッパリ感を感じる程度になっていった。患者自身の学習が患者自身の治療に役立つことを再確認した。治療にかけられる時間は限られているし、生活していく中で治療以外の時間の方が圧倒的長い。その中で、セラピストとワンツーマンでしかできないことと、患者しかできないことを見極め、アドバイスし、患者の自立した日常生活に結び付けられるような結果を出すことが、私達の仕事であり役割である。

2016年9月1日木曜日

バリバラ 検証!「障害者×感動」の方程式 (Eテレ)

荻野 敏(国府病院)

バリバラ 検証!「障害者×感動」の方程式 (Eテレ)
http://www6.nhk.or.jp/baribara/lineup/single.html?i=239

24時間テレビが嫌いだ。

と言うより、「24時間テレビに違和感を覚える」と言ったほうがしっくりくる。そうは言っても、僕が理学療法士を目指すきっかけになったのは24時間テレビを見た経験だった。たしか中学のときに放送されていた特集で、障害者に対してリハビリテーションを行う職業として理学療法士が紹介されていたと記憶している。一時期は大好きでよく見ていたが、実際に理学療法士になってからはまったく見なくなった。理由はあんまりはっきりしない。とにかく違和感があった。常に感動、感動、感動の押し付け、そして芸能人がマラソンしてゴールするという不可解。このマラソンにはまったく意味が感じられなかった。

2016年8月28日(日)午後7時

まさにこの番組が生番組で放送された。そして裏番組ではその24時間テレビがクライマックスを迎えている!!
かなり挑戦的なタイトル!番組のホームページにはこう書かれている。
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「感動するな!笑ってくれ!」というコンセプトで始まったバリバラ。しかし、いまだ障害者のイメージは「感動する・勇気をもらえる」というものがほとんど。「なぜ世の中には、感動・頑張る障害者像があふれるのか?」その謎を徹底検証!スタジオでは「障害者を描くのに感動は必須か?」「チャリティー以外の番組に障害者が出演する方法は?」などのテーマを大討論!Twitterで視聴者ともつながり、みんなで「障害者の描き方」を考える。
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ものすごくすっきり!!!もちろん録画!ちなみにバリバラとはバリアフリーバラエティの略だそうだ。

「感動ポルノ」という言葉がある。
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私たちが障害者の姿に感動しているのは、心のどこかで彼らを見下しているからかもしれません……。2014年12月に亡くなったコメディアン兼ジャーナリストのStella Young(ステラ・ヤング)氏は、従来の「気の毒な障害者」という枠を破った率直な発言で人気を集めました。健常者の感動を呼ぶために障害者を取り上げる風潮を批判し、障害者問題に対する社会の理解を求めました。(TED2014より)
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TEDに出演したStella Youngさんは講演の中で以下のように述べている(一部改変しております)
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私たちは、障害を悪いものとしてとらえてきました。障害はマイナスである。そして、障害と共に生きることは素晴らしいことであると。障害は悪いことではないのです。そして、障害があるからといって、あなたが素晴らしい人間だというわけでもありません。さらに過去数年間、ソーシャルメディアによって、この手の嘘はより広く伝えられてきました。みなさんも、このような画像を見たことがあるのではないでしょうか。
「ネガティブな態度こそが、この世で唯一の障害だ」
「言い訳は通用しない」
「諦める前に、やってみろ!」
これらはほんの一例に過ぎませんが、こういったイメージは世の中にあふれています。みなさんも、両手のない少女がペンを口にくわえて絵を描いている写真や、義足で走る子供の写真を見たことがあるのではないでしょうか。こういう画像はたくさんあり、私はそれらを「感動ものポルノ」と呼んでいます。「ポルノ」という言葉をわざと使いました。なぜならこれらの写真は、ある特定のグループに属する人々を、ほかのグループの人々の利益のためにモノ扱いしているからです。障害者を、非障害者の利益のために消費の対象にしているわけです。(一部改変)
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バリバラの番組内で、障害者の感動を描いたドラマなどが好きかどうかをアンケートで聞いていた。健常者の約半数、障害者の1O%が好きと答えた。健常者は、「がんばっていることに感動する」とか「改めて自分の幸せを感じられる」といった理由を挙げていた。障害者は、「感動でも何でも取り上げてくれたら良い」といった理由だった。僕の24時間テレビへの違和感はこの感動ポルノを基礎としたものだった。障害者ががんばって障害を克服するというストーリーは健常者の上から目線であり、そのことで自分を慰める単なる健常者の防衛機制、いやいや「マスターベーション」だ!

理学療法士や作業療法士がこんなに増え、バリアフリーだ、ノーマライゼーションだなんだかんだ言われているけど、まったく変わっていない。障害者だって普通に生活しているだけでしょおが!

『私は障害者向けのデリヘル嬢』(大橋みゆき著 ブックマン社 2005)という本がある。タイトルどおり、障害者専門のデリヘルを経験した女性のノンフィクションだ。障害者だって性欲はある、当たり前だ、人間なんだから。知らず知らず、障害者は努力をしている聖人のような扱いをされて、性欲なんて・・・・・・といった風潮がありませんか?

きっと、感動ポルノの根底にはもっと根深いものがあるのだろう。

つーか、もし僕がSNS持っていて、こんなこと書いていたら、荒れるんだろうなぁ・・・・・
( ̄Д ̄;;