2011年10月15日土曜日

感情の階層性と脳の進化

林 節也(岡崎共立病院)

「感情の階層性と脳の進化」-社会的感情の進化的位置づけ
筆者:福田 正治 富山大学医学部行動科学
機関名:感情心理学研究 第16巻 第1号 2008

認知運動療法から認知神経リハビリテーションへと名称が変わって早数年。認知運動療法は精神を考慮したリハビリテーションへと進化した。「身体とその運動は精神を切り離さずに研究されるべきであるし、治療されるべきである」(認知神経リハビリテーションホームページより)。ここで出てきた「精神を考慮したリハビリテーション」。それらに関係してくるのが感情と考え、文献を探していたときにこの文献に出会った。

この文献では、感情の階層性は、脳の進化である原始爬虫類脳、旧哺乳類脳、新哺乳類脳の三相に区分される三位一体モデルをもとに考えられたもので、原始情動、基本情動、高等感情(社会感情と知的感情)に分けられると考えられている。原始爬虫類脳である脳幹や視床下部では、快・不快の発生。旧哺乳類脳である大脳辺縁系では、喜び、受容・愛情・怒り・恐怖・嫌悪の5つの基本情動。新哺乳類脳である大脳皮質では、社会感情と知的感情が備わっており、社会感情では、相手の心を読み取る能力が発生し、知的感情では人間特有な感情で、人間の文化に関連し、宗教・思想・信念・科学に依存ている。

我々ヒトの脳は大脳皮質に覆われており、社会感情と知的感情が備わっている。社会感情・知的感情は生活歴に左右され、個人個人により能力が異なると考えられるため、リハビリテーションにおいても、個人個人に合わせた展開が必要ではないかと改めて考えさせられた文献である。
初めに戻るが、「身体とその運動は精神を切り離さずに研究されるべきであるし、治療されるべきである」。ヒトの運動や行為は身体機能面だけで決まるものではなく精神機能面の考慮する必要があると改めて感じた。

2011年10月1日土曜日

自己主体感における自己行為の予測と結果の関係

首藤 康聡(岡崎南病院)

日本パーソナリティー心理学会 2007 第16巻 第1号
「自己主体感における自己行為の予測と結果の関係」
-行為主判別に対する学習課題を用いた検討-
浅井 智久1)  丹野 義彦1)   
1) 東京大学総合文化研究科

ちょっと自己主体感について気になっていたので調べていたらこの論文を見つけました。この自己主体感は運動の最中は言うまでもなく、運動が出現する以前にも必要となってくると考えられます。この自己主体感に問題が生じている患者に遭遇する事は少なくありません。それは様々な患者さんの記述から気付く事ができるんですが、となるとこの自己主体感の改善をしていかなければ、患者さんの運動の回復は行えません。

自己主体感には「行為主判別」が必要でそれには「予測」と「実際の結果」が必要となってきます。これはフィードフォワードモデル理論によって説明されているのですが、今までの研究では「予測」に焦点を当てているものが多く、「実際の結果」に焦点を当てているものは見受けられませんでした。そういった背景から筆者はこの研究を行おうとしたようです。詳細は実際に論文を読んでみて下さい。

今回の研究結果により「行為主判別」には「結果の予測」と「実際の結果」が必要であることが示されています。また、文中に「・・・異常な自己主体感であっても、学習によって正常な方向へと変えることが出来るかもしれない。」と述べているようにこの研究結果は異常な自己主体感を訴える統合失調症の患者の治療に有効である可能性を示唆しています。しかし、異常な自己主体感を訴える患者は何も統合失調症の患者だけではありません。前述したように我々が対象としている患者にもその症状は出現している場合があります。となると、この論文は我々のリハビリテーションにも応用可能ではないでしょうか?

またこの結果はAnkhinのモデルの正当性を示唆すようにも思えます。認知神経リハビリテーションのコースでもよく用いられるこのモデルですが、関連付けられるような学習過程についてのモデルはいくつもあるんですがしっかりと根拠を述べた説明をあまり聞いた記憶がありません。(ひょっとしたら僕が知らないだけなのかもしれませんが・・・)だけど、このような論文はあくまでモデルであった理論を根拠のあるものに変えて行くものだと思います。このような論文を読んでいくことがリハビリテーションの科学性を高めて行くかもしれませんね。