2011年4月17日日曜日

「話す力」が面白いほどつく本

井内 勲(岡崎共立病院)

『「話す力」が面白いほどつく本』,三笠書房,櫻井弘

この本は普段、何気なく行っているコミュニケーションという行為を見つめ直し、コミュニケーション本来の力を十二分に発揮することを目的とし書かれていました。著者は『「話す・聞く」という行為には、無限の可能性が秘められています。それをどう使うかで、周囲に対する影響は大きく違ってきます。その影響はやがて、自分に返ってくることは言うまでもありません。』と述べ、コミュニケーション能力に関してポイントを7パートに分け説明しています。社会生活の上でコミュニケーンは欠かすことの出来ないことで、その能力によって相手に与える自分自身の印象や、相手からの受け入れ、信頼など大きく影響することから、言うまでもなく、自己研鑽やこの時期の新人教育としての接遇教育などで役立つのですが、さらには我々の治療場面や、展開の上でもこのコミュニケーション能力は患者の内なる世界を見出す方法としても重要な技術であり、その視点で読み進めてみても、とても興味深い内容でした。

例えば、
PART4 あなたは「話し方」で損をしていないか、の章では、質問力として「相手に理解してもらうにはどうしたらよいか」という内容が述べられています。まずは相手がイメージできるように具体例を使って話をすること、その場合の話の展開の仕方について
① 並列→強調・・・同じような例をいくつも出して、強調する
       「だからこそ・・・」
② 直列→対比・・・良い例と悪い例を出して、違いをわからせる 
        「したがって・・・」
③ 分解→分類・・・ひとつの例を分析、細分化して、構成要素を浮かび上がらせる
        「分けると・・・つまり・・・」
④ ステップ→誘導・・・第1段階は~、第2段階は~と順を追っていく
         「初めに・・・次に・・・最後に・・・」
⑤ 逆説→立証・・・もし~ならば、というように、逆のケースをあげて話を展開する
        「仮に・・・ということは・・・」
それでも相手が「もう一度説明して下さい」とあった場合は、どの部分が特にわかりにくかったのかを質問してみることで、「どこから、どのように」説明すればよいかが、明確になってくる、と著者は述べています。さらに、相手のわかっていないところがわからなければ、質問者はイライラし、結果的に質問力も低下し、相手に不快な言葉グセ(ここでは、「要するに」「ですから」などの自己中心的な言葉)を使用してしまう。と続けています。

その他にも、接続詞の効果的な使用方法で話にメリハリをつけるポイントもあり、当然のような事でもありますが、普段の自分の質問、会話を見直すきっかけとして参考になりました。

2011年4月2日土曜日

Q~わたしの思考探求~

荻野 敏(国府病院)

今年の1月から始まったNHK教育テレビの番組です。第1回がとにかく衝撃的でした。まず、この番組の内容は

人生で誰もがぶつかる永遠の問いを抱えたタレント「謎かけ人」に対して、日本を代表する文化人「賢者」が対話を通じて、思考を重ねてよりよい答えを探ってゆくトーク番組。

とあります。初回の「謎かけ人」はスーパーモデルの冨永愛さん。「賢者」はなんと!鷲田清一先生です。テーマは「自分とは何か」というとてつもなく深いものでした。初回にしてはかなりヘビーな内容だなあと思いつつ、番組を視聴。冨永さんはスーパーモデルであり主婦であり母であり、そんな自分はいったいどういう存在なんだろうということを悩んでいたそうです。鷲田先生との対話の中で少しずつ思考が深まっていき、そして番組の中で思考実験が始まります。思考実験とは現実の実験の一つの極限として思考だけで成立すべき実験で、一つの理論体系内での演繹推理の補助手段として用います。つまり頭の中で考えて、どうなるのかっていうことを推理することです。鷲田先生が出した思考実験はイギリスの精神科医・思想家のR.D.レイン(1927-1989)の例題をアレンジしたものでした。皆さんも考えてみてください。

この例題は母親と子供のやりとりです。息子は学校からかけだしてきます。母親は息子を抱きしめようと腕を開くが、彼は離れて立ったままです。母親は「お前は母さんが好きではないの?」と問います。すると息子は「うん」と答えました。さてこの後、母親が採った態度は以下の3種類です。どれが妥当でしょうか?
①「そう、いいわ。おうちへ帰りましょう」と言って家へ帰る
②母親は息子をどなりつけて言う「生意気言うんじゃないよ!」
③「だけどお前が母さんのこと好きだってわかってるわ」と言って息子を抱きしめる
さてどれでしょう?妥当な答えは?つまり、どの答えが自分にとって一番心に落ち着くかということです。
鷲田先生曰く、この中でもっともとってはいけない態度は③だそうです。一番いいのは②だそうです。意外でしょ?でも理由があるんです。②の答えは、
・自分の言葉が母親に強烈な影響を与えている
・母親に他人として認められている
・自分が言うことで母親をそこまで激怒させた
ということが示されています。ところが、③は子供がそう思って言った言葉を「お前は間違っている」といった具合にまるで消しゴムで消すように消されてしまっています。こういう状況にいる子供は、自分は間違っているとか、この言葉は他人に届かないと思わざるを得ないそうです。つまり③を言われた子供はいつまで経っても自分を認められないと思うそうです。これは、考えてみたら怖いですね。自分の思っている感情を否定されるんですから。①の答えの場合は、一度「いいよ」と距離を置いたままとりあえず帰っているので、子供は母親に一応他者として認められています。一見優しい母親の態度と思われる③は、実は他者否定に繋がります。自分がなんなのか、どういう存在なのかわからなくなったとき、他者と私の関係の中である程度の場所を占めている存在、他者の他者として今ここにいるということを感じられることが大切だと説いてくれました。なるほど、自分とは何かを考えることは、自分にとって他者とは何かを考えることであり、それは他者にとって自分とは何かを意味することでもある。すげえなあ~と興奮しながらテレビを食い入るように見ていました。他にも示唆に富む内容がたくさんありましたが、すぐにこの番組のファンになっちゃったんですね。ところが・・・・・・。3月の第11回で終了してしまいました。残念です。NHKから書籍も出版されているみたいですよ。要チェックです。

全11回すべての「テーマ」「謎かけ人」「賢者」一覧を書きますね。
第1回:「自分とは何か」冨永愛×鷲田清一
第2回:「なぜ戦争はなくならないのか」サヘル・ローズ×伊勢崎賢治
第3回:「言葉とは何か」又吉直樹×町田健
第4回:「働く意義とは」カンニング竹山×橘木俊詔
第5回:「恋愛とは何か」光浦靖子×泉谷閑示
第6回:「哲学的に考えるとは」石川直樹×入不二基義
第7回:「幸せを感じる社会とは」川嶋あい×川本隆史
第8回:「賢い人づきあいとは」鳥居みゆき×菅野仁
第9回:「時間とは何か」マギー×植村恒一郎
第10回:「運と人生の関わりとは」品川祐×植島啓司
第11回:「心豊かな生き方とは」長塚圭史×竹田青嗣

でも、すべての回を録画してあるので、また時間があるときにもう一度観てみたいと思える番組でした。