2014年9月20日土曜日

怪談と擬音から

岡崎共立病院 井内勲

先日の愛知ベーシックコース、二日目の朝、出かける準備を進める際に何気なくつけていたTVからの『語り手と聞き手の「イメージの共有」』というフレーズに注意が向き、思わず手を止めて見入ってしまった。

その番組は、ご存知の方も多い日テレ系、日曜日、朝7時からの『所さんの目がテン!』という長寿番組において『怪談の科学』とういうテーマ(関東地方では8月17日放送分)であった。大まかな内容の紹介としては、怪談は話を聞くだけの聴覚情報がメインにも拘らず、かなりの恐怖を感じる。それはなぜなのか?その恐怖を演出する様々なテクニックと、怪談に隠された魅力とナゾを解明する。ということで、まず3つ問題提起をし、それを実験、検証しながら結論づけをしている。

詳細は当番組のホームページから参照できるのでそこにお願いするとし、結論的に怪談に隠された3つのテクニックとは、

①擬音を多用し、話をより「リアル」に想像させ、まるで"怪談の世界の当事者"になったような錯覚をおこさせる。
②早口で語ることで、語り手の「緊迫感」が聞き手に伝わりやすくなり、結果、"恐怖を感じやすい状態"をおこさせる。
③1対1に語るのではなく、大勢の中で聴かせることで「怖がっている人が周りにいる」という状態が、ひとりで聞く時より興奮度が増し、より恐怖を感じやすくなる。

という事であった。

今回、自分が興味をひかれたのは先にも述べたが、擬音語にて『イメージの共有』をはかるという部分である。

それは①の内容の中で、「一番大事なのは、イメージが湧かないと困るから私頭の中でいつも画を描いてる」とお馴染み、稲川淳二氏の怪談の恐怖を感じさせるテクニックについてのコメントがあった。さらに、怪談において重要なのは、語り手と聞き手の『イメージの共有』であり、そこで使われるテクニックとして擬音で、感性を刺激する。と彼はインタビューに応じていた。更に番組の中において擬音が持つ聞き手にイメージを共有させる効果について「擬音は言葉で理解するのではなく、感覚的に受け入れることになるのでとてもリアルに感じるようになります。擬音を多用されることによってとても具体的にイメージが出来上がることになります」と心理学者はコメントしていた。

言うまでもなくイメージを治療ポイント、toolとして臨む我々は、擬態語も含め、オノマトペを使用し、また患者にも言語記述してもらう。自分としてここであらためて、時には「聞き手」でもあり「話し手」でもある患者や我々、治療者は、この擬音の持つ『イメージの共有』という効果を視野に入れ、どんなオノマトペをどのように活かして使用していくのか。どのようにそれらを理解していくのかを再考する必要があると、朝の慌しい準備の中、気づかされた。

そしてきっとこの話題への選択的注意も、特にベーシックコース途中であった事も大いに影響しているであろうことに、感謝したい。

2014年9月2日火曜日

重度認知症患者の中枢性の痛みの評価と治療

若月 勇輝(西尾病院)

重度認知症患者の中枢性の痛みの評価と治療
( Assessment and Management of Pain, with Particular Emphasis on Centeral Neuropathic Pain, in Moderate to Severe Dementia )
Erik J.A.Scherder 著
Drugs Aging 29号 ( 2012年7月 )

臨床の中では、認知症を合併した骨折患者が多くいます。その患者が痛みを訴えますが、本当に痛いのかどうか、どのくらい痛いのか、そもそも認知症の痛みの特徴は何なのかを調べていました。最新の知見を得るために、新しいレビュー論文を探していました。

今回私が読んだ論文は、私が持っている論文の中では、最も新しい認知症の痛みについてのレビュー論文です。著者であるErik J.A.Scherderは、オランダのアムステルダム自由大学(Vrije Universiteit Amsterdam)の教育学部と心理学部の教授であり、認知症についての研究論文を多く執筆している研究者です。

中枢性の痛みは、これまで脳卒中患者を中心に語られており、認知症患者の痛みは中枢性のものということはあまり多く言われていないそうです。白質病変を生じる認知症も中枢性の痛みを生じる可能性があり、認知症患者の痛みは中枢性が最も多いのではないかと主張していました。また、認知症患者の痛みは原因が分からず、治療されないままになっていることがあり、その治療の重要性について記述していました。

認知症患者の中枢性の痛みの評価方法は、一般的な自己報告の痛みに加え、痛み行動評価を併用することが妥当だろうと述べていました。また、その他の評価には、感覚検査や脈や血圧などの自律神経系の検査、不安などの情動の評価、腱反射やバビンスキー反射などの病的反射の検査が紹介されていました。治療は投薬や電気刺激について記載されており、リハビリテーションに関しては記載されていませんでした。

中枢性の痛みは、認知神経リハビリテーションにおいても介入できる可能性があります。認知症患者に対しても、諦めずに介入していきたいと感じた論文でした。