2015年9月29日火曜日

昔話法廷

荻野 敏(国府病院)

昔話法廷(Eテレ)
http://www.nhk.or.jp/sougou/houtei/

またまたファンキーな番組をやってくれていました、Eテレ!

今回は昔話で起きた事件を題材に法で裁くというちょー難問。先生向けのページというのもあってそこにはこう書かれています。

「この法廷ドラマの特徴は、最後に判決が出ないことです。判決を下すのは、それを教室で観た子どもたちです。一人一人が「裁判員」として、争点は何か、被告人はなぜ罪を犯したのか、証拠は信用に足るのか、どれぐらいの量刑が妥当なのか、登場人物の言い分をもとに議論を交わしていきます。」

本当の裁判みたいに番組は進行していきます。しかも裁判員裁判ですので、一般のわれわれも判決に加わらなければいけないかもしれない。そういう視点で見ていくと、結構意見が分かれそうです。そして検察や弁護人の陳述によっても、自分の意見がぐらつくのがわかります。

たかだか、15分の番組です。第1話が「三匹のこぶた」、第2話が「カチカチ山」、第3話が「白雪姫」です。それぞれ、こぶたが狼を殺したのは殺人かそれとも正当防衛か? ウサギがたぬきを懲らしめたのは認めているがウサギは刑務所に送られるべきかそれとも執行猶予か? 王妃が白雪姫を殺そうとしたが王妃は全面否定、では有罪か無罪か?

あくまで思考することが目的なので番組の結論は出ないままで、めっちゃフラストレーションが溜まります(笑)。奥さんとそのあとディスカッションしてみたんですが、僕も奥さんも主張が違っていて、結論はまったく違っていました。裁判員裁判なら多数決に持ち込まれるでしょうね。

昔話を法廷にかけるという視点。見方によって主張が違うという視点。同じ番組を見ても意見が違うという視点。こういう視点に気づかせてもらいました。

2015年9月3日木曜日

実行機能の発達から考える

岡崎共立病院 井内勲

第14回の学術集会で「実行機能の初期発達とその脳内機構」というテーマで講演をして頂いた、森口佑介先生(上越教育大学大学院・科学技術振興機構さきがけ)の文書が当院の言語聴覚療法の待合にある本棚にあったので紹介する。

『発達教育』という公益社団法人 発達協会が発行している月刊誌の2015年7月、8月、9月号にて「実行機能が発達する道すじ」として連載されていた。

7月号は「実行機能の初期発達とその重要性」という題で、「ある場面において優位な行動(選択されやすい行動)を抑制したり、行動を切り替えたりすることで、目標遂行を可能にする能力」と実行機能の説明を、例えに欲求をアクセル、実行機能をブレーキやハンドルとういう表現も加えて解説している。また研究から実行機能の発達時期(概ね5歳頃まで)や神経基盤が前頭前野の一部領域(学会の講義では下前頭領域との関連を紹介されていた)の発達と関連しているとし、更に興味深い内容として実行機能の個人差が小学校入学後の国語や算数の成績と関係することや、実行機能を含めた自己制御能力が高い子どもは児童期や青年期の友人関係が良好で、成人後も収入や社会的地位が高く、健康状態が良好という証拠も示されていると初期発達の重要性を述べている。

8月号では「実行機能の発達に影響する遺伝的・環境的要因」として二つの重要な要因を説明している。自分としては後者の環境的要因の研究で、幼児とぬいぐるみとのやりとりに注目した研究がヒントとなった。事前に幼児にルール切り替え課題をおこない、そこで失敗した幼児のみに対して、先の課題のルールをぬいぐるみに対して遊びの中で教えるように指示した。結果は、ぬいぐるみに課題のルールを教えることで、自らの課題の成績を向上させ、更に前頭前野の活動も教えることを通じて高まった。という内容である。
 目標遂行にあたり、目標志向的な行動の実現においては他者との関係(ここでは仲間とのやりとり)が前頭葉の活動も高め、実行機能の発達を促進する可能性が示唆されたことは、我々の患者とセラピストといった関係や、上司と部下といった組織教育場面においても置き換えて考える事が出来るのではないかと感じた。単に与えるといった指示だけでは困難な場合があり、違う位置(立場)から自分をみてもらい伝えてもらう事も重要であるように思った。

最後の9月号は「実行機能の発達に問題を抱える子ども」について、自閉症スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの紹介から支援について筆者の見解が述べられている。先にもあったように実行機能が前頭前野の発達と密接にかかわっているという事からも、この領域が様々な脳領域とネットワークを築いており、その発達も他の脳領域に比べ時間がかかるという特徴がある。よって実行機能が様々な障害に関わるのは事実だとしても、実行機能のみに着目し、実行機能のみを標的とした支援をしていても意味がないかもしれない、日常的な行動として実行機能の弱さが見られるとしても、実行機能とそれ以外の能力の弱さを考慮した支援が必要であると筆者が論じている。これらからもあらためて、脳の障害部位を機能局在としてみることではなくシステムとして全体を考え、影響のある要因を考慮した評価・治療も必要であると再認識させられた。

今回、紹介した『発達教育』は表紙にも「発達につまずきのある子どもの子育てと保育・教育を応援します。」とあるように、医療従事者への専門書というよりも対象読者は一般向けの雑誌である。したがって比較的分かりやすい言い回しで書かれているので読みやすく、導入としては十分であった。また、さらには研究の紹介や参考文献もしっかりと載せられており、筆者が考える今後の仮説や課題もあり十分に参考となった。