2012年3月17日土曜日

のだめカンタービレ

荻野 敏(国府病院)

作:二ノ宮知子 出版社:講談社(2001~2010年)

「のだめカンタービレ」はkissという雑誌に2001年から2010年まで掲載された漫画です。巻数は全25巻発刊、映画やドラマ化もされ世にクラシックブームを引き起こすきっかけとなりました。僕がクラシック好きということを知っている人も多いと思います。2007年に開催された第8回日本認知運動療法研究会学術集会の準備で奔走しているときに、クラシックに触れてその面白さにはまりました。それ以来、クラシックに親しむことが増えて、昨年はピアノコンサートに2回、NHK交響楽団のコンサートに1回行ってきました。

「臨床のヒント」は愛知の勉強会の運営委員が、日常の中でふと感じた認知運動療法に関連する「知識」を表現する場です。難解な文献や最新の知識は他の運営委員に任せて、僕はもう少しざっくりしたヒントをここで書きます。そして今回のテーマは「のだめカンタービレ」です。



果たして「のだめカンタービレ」で何が語れるのか、疑問に思う方もいるかもしれませんね。今回はこの漫画から2つの点をピックアップしてみたいと思います。まずは、簡単にこの漫画のストーリーから。

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ピアノ科に在籍しながらも指揮者を目指すエリート音大学生・千秋真一は、胴体着陸の恐怖体験による重度の飛行機恐怖症に加えて海で溺れたことのトラウマのため船にも乗れないことから、生まれ育ったヨーロッパに行くことが出来ず、将来に行き詰まりを感じて思い悩む日々を送っていた。担任の教授の教育方針に反発し口論の末に決別、別れた彼女にもつれなくされて自暴自棄になっていた。

ある日、千秋は酔っ払って自宅の前で眠ってしまう。目が覚めると周囲にはゴミの山と悪臭、そして美しいピアノソナタを奏でる女性がいた。彼女の名前は野田恵(通称・のだめ)で、なんと千秋と同じマンションの隣の部屋に住み、同じ音大のピアノ科に在籍していたのだった。入浴は1日おき、シャンプーは3日おきというのだめだったものの、千秋はのだめの中に秘められた天賦の才を敏感に感じ取る。そしてのだめもまた、千秋の外見と音楽の才能に憧れて彼に纏わり付くようになる。この出会い以来、千秋はのだめの才能を引き出すべく、何だかんだと彼女に関わるようになる。

将来に行き詰まりを感じていたため無愛想だったが、本来は面倒見が良い性格の千秋は、のだめとの出会いを機に彼女の存在が潤滑油となり、音大の変人たちに出会い、懐かれ、順調に道を踏み外しながらも音楽の楽しさを思い出し、新しい音楽の世界と指揮者への道を一歩一歩切り拓き始める。また、千秋の存在によりのだめもより高い技術を得るための指導者や、環境に出会う機会を得て、それぞれが成長していく。
(Wikipediaより転載)
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まず、一つ目の点。これは漫画です。漫画はどの知覚モダリティを用いるかと言えば当然、視覚と文字。漫画からは音は聞こえません。そしてその世界観の触覚を感じることはできません。クラシックの世界を漫画で表現するなんてことは、普通は考えられませんよね。もちろん、アニメーションや映画・ドラマならクラシックを表現することは可能だし簡単です。でも、「のだめカンタービレ」は漫画から人気が出て、様々なメディア化をされました(そういえばDSのソフトにもなっていました)。漫画を読みすすめていくと、様々なクラシック音楽を演奏するシーンが描かれている場面を見かけます。そしてそのシーンを読んでいると頭の中で音楽が奏でられてきます。視覚情報から聴覚情報が呼び起される・・・・。ひとの感覚や感情の不思議を感じてしまいました。

もう一つ。第8巻に、のだめと千秋のメールのシーンがあります。のだめはコンクールに出るためにシューベルトのピアノ曲を練習します。しかし、なかなかうまく演奏できません。そんな中、のだめは千秋にメールをします。

Sub:シュベルトは
気難しい人みたいでが
んばって話しかけても
なかなか仲良くなれま
せん。お昼はかに玉で
す♡

千秋はそのメールに対して以下のような返信を書きます。

Re:シュベルトは
本当に「気難しい人」
なのか?自分の話ばか
りしてないで、相手の
話もちゃんと聴け!楽
譜と正面から向き合え
よ。

さて皆さん、このメールのやり取りを読んで、どう思いましたか?何も思いませんでしたか?僕は千秋のメールを読んでかなりドキッとしました。皆さんは患者やスタッフに対して一方的に話をしていませんか?本当に患者やスタッフの声を聞いていますか?自分の考えを主張することはとても大切です。そしてその考えを説明するだけの知識を持つことも大切です。しかし、立場が弱い人は立場が強い人から何かを言われたら反論をすることもできずに理解したふりをしてしまうかもしれません。

「自分の話ばかりしないで、相手の話もちゃんと聴け」

記述を引き出すこと以前に、相手とのコミュニケーションを大切にする。「関係性」を重要視する治療法だからこそ、最初の一歩をはき違えないようにしたいですね。そんなことを「のだめカンタービレ」を読んで反省させられました。皆さんもたまには漫画を手に取って一服してみてはいかがでしょうか?意外と発見があるかもしれませんよ。

2012年3月1日木曜日

自己認知と自己評価の発達とその神経基盤

井内 勲(岡崎共立病院)

自己認知と自己評価の発達とその神経基盤
筆者:守田 知代・板倉 昭二・定藤 規弘
機関名:ベビーサイエンス 2007 vol.07  pp.22-39,2008

我々が臨床場面で脳損傷により自己の身体感覚や、ボディーイメージを損傷している患者にしばしば遭遇し、そしてそれらの神経生理学的な視点を色々模索すると思う。
この論文の研究はその中の一つである。

筆者はこの研究の注目すべき点として、右前頭前野にみられた2領域(運動前野、下前頭回)の活動であると述べる。脳損傷患者の臨床的知見によれば、右側前頭前野が自己関連プロセスに関与していることは指摘されているものの、損傷部位の正確な位置を特定することが困難であるために、領域内の機能的な違いについてはあまり議論されていない。よってここでは心理学、発達心理学的な知見を背景に自己認知と自己評価の差異について、ニューロイメージング研究から明らかとなった2領域の活動パターンの違いを検討し、各領域が担う役割(運動前野は自己認知、下前頭回は自己評価)について考察している。

私見としては、『右側運動前野の機能として自己と他者を単に識別するという視覚的なプロセスだけでなく、そこから派生する自己像に対する関心や意識などに深く関連している可能性が推測される。』ということから、寝返り時に予測的に自己像を想起することが困難で手を忘れたりすることは、自己への関心や意識などが影響していることを改めて考えてみた。
また右側下前頭回は自己評価プロセスにおいて重要であり、その活動は自己評価の結果生じる恥ずかしさ(自己意識情動)の強度と関係し、『これが強く喚起されることで自己評価プロセスは抑制されてしまうかもしれない。』とある。よって自己評価プロセスの発達には『羞恥心』(ネガティブ情動)ではなく『プライド』(ポジティブ情動)が必要ではないかと予想してみた。

いかにすれば患者が自身の身体に興味を抱き、自らその身体を改変させ、環境に相互するすべを手に入れるのか。
こんな事を考え、日々模索する。