2016年5月15日日曜日

認知神経リハビリテーション入門

荻野 敏(国府病院)

カルロ・ペルフェッティ著 小池美納訳 2016年4月28日 初版第1刷発行 協同医書出版社

巻末には以下のような文章が書かれている。

“本書は、認知神経リハビリテーション(認知運動療法)に関わるカルロ・ペルフェッティの下記の著書から、「入門書」としての目的に沿って重要な概念の説明を引用・編集したものである”

下記の著書とは、『認知運動療法』『子どもの発達と認知運動療法』『認知運動療法講義』『脳のリハビリテーション』『認知運動療法と道具』『身体と精神』である。ページは100ページ弱で定価は2500円。エッセンスをピックアップしていて基本的な理論を学ぶことが出来る。本の帯にはこうも書かれている。

“認知神経リハビリテーション(認知運動療法)のもっとも基本的な概念、そして実践の原理を、カルロ・ペルフェッティによるテキスト群からその解説を引用し、編集した最新の入門書。理論のみならず、身体部位や道具別に基本的な訓練の組み立て方もわかりやすく解説した充実の内容”

ふんだんに図や写真を引用して、分かりやすく解説してある。訓練の例も具体的に挙げられていて、入門には最適な気がする。ベーシックのテキストとしても使えるのでは、と思ってしまう。

もし僕が新人のセラピストから「お薦めの認知神経リハビリテーションの本って何ですか?」と聞かれたら、おそらくこの本を薦めるだろう。値段的にもお手ごろだし、何より見やすい。福岡学会の時には書籍コーナーに並んでいると思う。皆さんも学会に参加して、ぜひ書籍コーナーを覘いて手に取って見てください。

2016年5月3日火曜日

新緑へパラダイムの拡張

井内 勲(岡崎共立病院)
 
暖かかい陽が多くなり爽やかな風が吹く5月、草木が芽吹くまさに新緑の候、皆さん様々なG.Wの過ごし方をされている事であろう。自分の職場は祝日が関係のない勤務スタイルなのでこの時期の休日は色々と貴重であり、その中の一つに普段はあまり手をかけない家の庭仕事がある。長い冬がようやく終わり一雨ごとに庭の草木が徐々にうっそうとし、朝カーテンを開けるたびに「そろそろやな…」とあちこちに伸びる草や隣の家に侵入する木の手入れに重い腰を上げるタイミングをはかっている。そもそも庭と言ってもそんな豪邸でもないので、その気になれば一日もあればけりがつく程度のなんだが、感じのいい庭なので手を入れるか入れないかでかなり雰囲気が違ってくる。それを承知で借りている家でもあるのでやはり自分が動かないといけないわけである。前もって天気を気にしながら予定を立て、今日こそはと先日朝から取り掛かった。

どこから手を付けるべきなのかと重い高枝切ばさみを持ち、枝の剪定から始める。お隣に切った枝が落ちないように十分に注意しながらとにかく目の前から進めていくのだが、一部に集中しその場からしか見えない部分にこだわってしまう。そして全体のバランスを見失いほどなく行き詰る。面倒だが一端離れて、角度を変えまた取り掛かる。そんなことを繰り返しながら時には木の下から見上げてみる、二階から眺めてみる。見る場所を変えると当然見え方が変化する。見え方が変わると視点も広がり、課題もみえ作業意欲も多少広がる。次に草取りへと鎌を持つ。カーテン越しに見ていた風景からさらに腰をかがめて庭を見る、さらに目立つ草から少し細かい場所の草を手入れしようと膝をつき、道具を持ち変える。垣根や低い木の根元などへと頭をかがめ視点を変化させる。次第にカーテン越しに見えていた庭が、角度を変え、視点を変えることでジブリの世界観のような様々な自然に出会える。今まで見えていた緑も鮮やかな緑から深いものまで、当然ながら単色ではない草木の種類や繊維の違いによっても異なる色合い、風味が見えてくる。そうなってくると苦痛から入っていった庭仕事も、発見、興味、楽しさへと変化する自分が存在し、そしてさらなる追求(こだわり)へと庭仕事に対する動機も変わっていった。庭作業を単純にうっそうとした草木をある程度、手入れするという視点は、こんなところにこんな新緑があるんだという発見や、もっと見栄えが良くなるには、さらに深みが引き立つには、と作業に対するパラダイムの転換までではないが、パラダイム追加、進化!?となった。まさに快の情動とやる気とのシステムといえよう。

今回の臨床のヒントは、雑感のような内容となってしまったが、この体験を患者の目線やセラピストの目線に置き換えて考えて頂きたい。もし患者が障害を呈した状態で生活しなければいけない、治療を受けなければいけない時、いかにしてこのネガティブな心身状態からの視点、視野の拡大を図るのか。いかにしてセラピストはそれの一助となり得るのか。そこにはもしかするとセラピスト自身が、今みえる視点、視野を広げる作業をしないといけないのかもしれない。それは自身をメタ認知する視点、いま行っている、行き詰っている視点からのパラダイムシフトも必要なのではないか。次回の5月21日に開催される第79回愛知県認知神経リハビリテーション研究会(ETCA)勉強会においては、新年度の会でもあり主旨としてもこれから認知神経リハビリテーションに取り組む方や、興味のある方にむけてコーディネートとされる予定である。自身としては、これからという方はもとより、現在取り組んでいる方も自身のパラダイムに対して本当にこれでよいのかと再考できる機会となればと思う。是非とも色々な方にご参加いただき、ディスカッションを拡張していきたい。