2012年5月1日火曜日

臨床家の日常

首藤 康聡(岡崎南病院)

今日は大阪の勉強会に参加した帰路での出来事について書きたいと思います。会場から電車を乗り継いで新大阪駅で降車した時のことです。別に普通に電車を降りて階段に向かって歩き始めたんですがその時、僕は衝撃的なことに気がつきました。乗ってきた電車が進行方向に対して右に傾いていたんです。そして、その時なぜか僕はホームが斜めになってるから電車が傾いて見えるんだと思ってしまい、その瞬間に地面が傾いているように錯覚してしまったんです。そして、その瞬間に僕は足がふらついてしまいました。現実との乖離が生じてふらついてしまったんだと思いますが、ここで「はっ!」としたんです。

振動刺激による運動の錯覚やラバーハンド錯覚、幽体離脱などが有名ですが、錯覚は情報の矛盾によって生じるものとされています。このような場合、その瞬間の感覚の矛盾により錯覚が生じます。ですが、今回の場合はちょっと違います。地面が傾いている錯覚を感じた瞬間は床の水平性もそれに対する僕の下肢も適切な相互作用を行っていたはずです。なのになぜ僕はホームが斜めになっていると錯覚し足がもつれてしまったのでしょうか?

ここでこの時の僕を整理して見たいと思います。
①僕は電車が斜めであった事に気づかず電車に乗っていた。
②水平と思っていた電車(実際は斜め)から水平のホームに降りたった。
③普通に歩いている時に斜めになっている電車に気がついた。
④電車が斜めになっているのを見たが、斜めになっているのは電車ではなくホームだと思ってしまった。
⑤ホームが斜め(実は水平)になっていると錯覚してしまい、下肢と床の関係性が不適切になってしまったので、足がもつれてしまった。

以上の5項目が大きな流れです。この中で足がもつれた原因はどこでしょうか?一見、⑤の錯覚が原因のように思えますし、④が原因のようにも思えます。さて④でしょうかそれとも⑤でしょうか?皆さんは何番だと思いますか?実は④と⑤は原因にはなり得ないんです。⑤については錯覚が原因で足がもつれたのではないかとい方がいらっしゃると思います。確かに錯覚の結果、足がもつれているので原因のように思いますが、錯覚は現象にすぎませんし、その理由が存在します。つまりこの部分だけをピックアップして考えてみると、錯覚という一つの現象は足がもつれるという次の現象を生み出したと解釈できるからです。④については錯覚を作るきっかけになりました。確かに僕はホームが斜めになっていると勘違いしてしまったのですからこれが原因のようにも思えます。しかし、これも勘違いしてしまった原因があるはずです。ここでもまだ、勘違いという現象が出現した段階でただきっかけを作ったにすぎません。ですから原因にはなり得ないんです。

ここでの原因は①だと僕は思います。僕が電車は水平だと勘違いしたことがきっかけですべてのことの始まりなんです。

僕の内部世界では電車は水平だったんです。だけどホームからみた電車の傾きは僕にとっては矛盾した答えだったんです。電車が水平であるという僕の間違えた記憶を皮質は信じてくれてなんとかその矛盾した主張を通そうとします。主張を通すために脳はホームが斜めになっていると強引に情報を作ってしまったのです。それが足をもつれさせるといった結果につながったんだと思います。ハッとした点はこの点なんですが、数秒前の電車が水平だったという僕の記憶が錯覚を作ってしまったということなんです。時間のズレを伴った錯覚の出現って面白くないですか?

さて、一見、原因であると思われることも実は原因ではなく現象である場合があります。それが今回のことでよくわかりました。臨床も同じです。試行錯誤して原因にたどり着いた時、安堵してからもう一度考えて見ませんか?そうするとその裏に隠された原因にたどり着くかもしれません。思考の循環。最も基本で最も難しいことなのかもしれませんが、日常の生活の中で気づくこともあります。皆さんも日常の中でふと臨床に結びつくことが浮かんできたりしませんか?いかがでしょう。皆さんの臨床のヒントを教えていただけませんか?投稿お待ちしています。

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