2012年6月2日土曜日

情動による記憶強化のしくみ

林 節也(岡崎共立病院)

題名「情動による記憶強化のしくみ」
著者:枝川義邦.お茶の水女子大学生活科学部生活工学研究会.2006

認知神経リハビリテーションを施行していて、日々思うことの一つに「訓練内容をなかなか記憶されず学習に至らない」ことがあります。先日行った内容は覚えているが、どこに注意を向けて座位保持を保つように指示されたか?座位保持の際に、どこの感覚を意識するのか?といった具体的な内容までは覚えておらず、結局本人の行いやすい代償動作が出現してしまう症例をよく経験します。

そのため、学習されやすい記憶とはどういうものかと思いこの文献を読みました。

私たち自身、日々の生活を送っている中、どうしても忘れられない経験があります。その時の光景をあたかもその場に居合わせているかのように思いだせる事もあるが、辛抱強く机に座って覚えたはずの教科書の内容をすっかり忘れてしまうことがあります。このように忘れられない記憶の中に情動に働きかけた記憶があります。

情動は大脳辺縁系にある扁桃体が中枢とされており、怒り・恐れ・喜び・悲しみなどのように、比較的急速に引き起こされた一時的で急激な感情の動き。好き・嫌いのような感情も含む多様で複雑な心の状態とされています。

この情動と記憶を司る海馬は隣接しており両者とも大脳辺縁系に属しています。海馬と扁桃体はそれぞれが複数の脳部位を含む回路を主導しており、記憶回路をPapez回路と情動回路をYakovlev回路と呼びます。また、海馬と扁桃体は隣接していることから密に神経連絡をしており情報伝達しているそうです。

そのため、情動に強く関与した事柄は海馬に情報伝達され記憶が強化されるそうです。

また、情動にはpositive emotion(正の情動)とnegative emotion(負の情動)があります。この正の情動・負の情動ともに記憶の強化は図れるそうです。以前は負の情動がより記憶の強化が図れるといった文献が多かったそうですが、近年の研究結果より、両者ともに記憶の強化が図れることが分かったそうです。(ただ、リハビリテーション界では正の情動を用いた記憶の強化を図りたいところだが、この文献はまだ手にしていないので探してみます。)

文献的にも情動に関与した事柄は記憶強化されると発見されているため、訓練時にもただ単に患者に思考させるのではなく、主体性を持たせ、情動に働きかけることで教科書の丸暗記ではなく、患者の情動に働きかけれるような訓練の構築が大切だと再度確認することが出来ました。

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