2012年7月2日月曜日

もうひとつの世界でもっとも美しい10の科学実験

荻野 敏(国府病院)

もうひとつの世界でもっとも美しい10の科学実験
ジョージ・ジョンソン著 吉田三知世訳
日経BP社 2009

自宅の近くにある小さな図書館にも意外と掘り出し物の本がおいてある。本棚を眺めて気になる本を手に取り、目次をぱらぱらとめくって内容が面白そうだと、小躍りしたくなる。だから、図書館や本屋は大好きだ。最近は科学系の本がお気に入りでよく読んでいる。この本も、近くの小さな図書館の一番奥の棚の一番高い場所に置かれてあった。普段なら絶対に目にはいることのない位置に置かれた本だが、科学系で面白そうな本を探しているときに出会えた。

タイトルからすでに好奇心をくすぐる。目次の前には晩年のアルベルト・アインシュタインの文章が書かれている。子供の頃に方位磁石を父親から見せてもらって、針がずっと北を指してることに対して強烈な印象を受けたそうだ。そしてこう綴っている。「それは、物事の背後には、奥深く隠された何かがあるに違いないという印象である」

「もうひとつの」とタイトルに付けられているので、察しがつくと思うが、「世界でもっとも美しい10の科学実験」という本も存在する。そちらの本は主に物理学の科学実験を紹介している。地球の円周を紀元前に測ろうとした実験やガリレオガリレイの斜塔の実験、アルファ実験と呼ばれる加速度の実験などが美しい実験として紹介されている。こちらも興味深いが、今回紹介する本には物理学だけでなく生物学・化学・物理学の科学全般から選ばれた10の実験が紹介されている。

第9章にはイワン・パブロフの条件反射の実験が詳細に記載されている。この章のサブタイトルは「測定不可能なものを測定する」だ。パブロフは犬を実験で使う際、「短期間で行う暴力的な実験」は極力避けたそうだ。パブロフは長期的なアプローチを好んだ。犬の胃や唾液腺などを手術して、動物が手術から完全に回復してはじめて、数ヶ月から数年間におよぶ観察に取りかかったそうだ。短期的で暴力的な実験は、パブロフから言わせると時計が動く仕組みを理解しようとして木槌で時計を壊してしまうようなものだった。著者はこう述べる。「パブロフが犬を使って行った研究は、その明快な論理とエレガントな体系によって、最も遠い星よりもなお遠いと思われていた世界、脳の内側への道を開いたのであった」と。

1904年、パブロフは消化生理の研究でノーベル賞を受賞する。1935年に「ある犬を記念して」という装飾噴水が、パブロフの在籍していた実験医学研究所の敷地内に作られたそうだ。その側面には研究所内の場景と「有史以前から人間への奉仕者でありかつその友であった犬が、自らを科学の生贄に捧げるのを受け入れよ。しかし、われわれに道徳的品格があるのなら、それは常に不必要な痛みなしに行われねばならない」というパブロフの言葉が刻まれているという。

他にも興味深い実験が紹介されている。かなり子細に。先人たちのアイデアには驚かされるし、実験とは観察なんだということを改めて思わされる。科学とはなんだろうか、我々の仕事はいったいなんだろうかと疑問に思ったときに紐解くと良い本である。一読を勧める。

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