2014年11月16日日曜日

可能性

首藤 康聡(岡崎南病院)

寝たきりの患者K
その役目を忘れてしまった、右の手に触れるとぎゅっと強く手を握りしめ硬直してしまう。
ただただ手にそっと触れる日々を数週間過ごすとKの手は僕の手を柔らかく受け入れてくれた。
初めは、強くぎゅっと固まったままだったその手は少し柔らかさを取り戻してきた。
少しだけ柔らかさを取り戻した手をそっとKの唇に触れさせてみたが何も起きなかった。
ただただKの唇に手をそっと触れさせる日々を数週間続けると少しだけその唇から音が聞こえた。
その音は唸り声のようにも聞こえたが確かにKの唇が紡ぎだした音だった。
ほんのわずかでもKは自分の身体を、そして声を取り戻したのかもしれない。

認知症の患者S
その左下肢は歩くたびにくねくねと身体を支える役割を放棄し、身体は左へ傾いていた。
Sはその異常に気づかず、いつも「足はしっかりしてる」「身体はまっすぐ」としか答えない。
数週間、左下肢と体幹への質問をSに投げかけ続けた。時にはSに怒り口調で返答されもした。
でもSの身体について問い続けると「足がちょっとふらふらする」「身体が傾いてる」と・・・
ある日、Sの身体は傾くことなくまっすぐに力強く前を向いた。
まだ歩行に変化はない。ただ少し変化へのきっかけはつかめるかもしれない。

意識障害と診断された患者T
意識障害と診断された視床出血の患者T。紹介状には回復は困難と書かれてあった・・・
病室に行き、ひょっとしたら聞こえてないかもしれないと思いながら挨拶を済ませた。
とりあえず、その手をそっと握るとわずかに握り返してくれた。
手を触れているのがわかるのか問いかけると、またそっと手を握り返した。
可能性があるかもしれない。そう思った瞬間だった。
そこから数ヶ月、Tと今日まで一歩一歩ゆっくりと、しかし確実に歩んできた。
そして今日、Tは15分間一人で座り続けた。僕とTは思わずにやけてしまった。

全ての患者には可能性がある。
脳の可塑性の可能性。
その可能性に挑戦し続けるセラピストに私はなりたい。

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